特に注意すべき構文

現代語には見られない、ラテン語独特の言い方というのがある。これらには特に注意すべきである。ここでは、次のようなものを取り上げる。

スピーヌム(supinum)・ゲルンディウム(gerundium)・ゲルンディーウゥム(gerundivum)

スピーヌム(supinum)・ゲルンディウム(gerundium)・ゲルンディーウゥム(gerundivum)の三者は、似ているために混乱しやす い。いずれも、動詞が他の品詞に転化した形である。

①スピーヌム(supinum)

スピーヌムの用法は、次の通りである。名詞形とはいっても、使い方を見る限りは副詞のようである。
  1. -umで終わる(対格):「eo」、「venio」、「mitto」などに附加され、動作の目的を示す。
  2. -u(長音)で終わる場合(与格・奪格):「facile」などの形容詞に附加され、形容の観点を示す。

②ゲルンディウム(gerundium)

ゲルンディウムとは、動詞の名詞形である。動名詞ともいう。目的語をとることも不可能ではないが、その場合には、前述したように「名詞+ゲルンディーウゥ ム」の構文を使うほうが普通であるので、結局、通常は単独で用いられることになる。次のような用法がある。
  1. 属格
    • 次のような名詞に係る。前置される。
      • facultas, facultatis 
      • occasio, occasionis 
      • potestas, potestatis 
      • cupido
      • studium, studii 
      • causa, causae 
      • tempus, tempi 
      • ars, artis 
      • signum, 
      • initium, 
      • finis,
    • 次のような形容詞に係る。前置される。
      • peritus, perita, peritum (~に経験のある)
      • cupidus, cupida, cupidum (~を望んだ)
      • studiosus, studiosa, studiosum (~に熱心な)
  2. 与格
    • 「studeo」「operam do」などの動詞の目的語となる。
    • 目的の与格(dativus finalis)として「utilis」などの形容詞に係る。
  3. 対格
    • 「ad」などの前置詞に係る。特に、次のような成句。
      • idoneus, indonea, indoneum ad ... (~に適している)
      • aptus, apta, aptum ad ... (~に適している)
      • natus, nata, natum  ad ... (~に生まれついている)
      • missus, missa, missum ad ... (~に送られた)
      • creatus, creata, creatum ad ... (~に選ばれた)
  4. 奪格
    • 「in」「de」などの前置詞に係る。
    • 方法の奪格(ablativus modi)・手段の奪格(ablativus instrumenti)として用いる。

③ゲルンディーウゥム(gerundivum)

ゲルンディーウゥムとは、受動態の未来分詞である(ドイツ語の「zu+現在分詞」にあたる)。惹起者の与格(dativus auctoris)を加えてもよい(ドイツ語の「von jemandem zu+現在分詞」にあたる)。次のような用法がある。「名詞+ゲルンディーウゥム」の用法には、次のようなものがある。
  1. 名詞に係る:受動態未来分詞本来の意味(ドイツ語の「zu+現在分詞」にあたる)。
  2. 名詞+ゲルンディーウゥム:「目的語+ゲルンディウム」の言い換え。特に、次の表現。
    • causa(長音、奪格)+属格名詞+属格ゲルンディーウゥム:動作の理由を示す。
    • ad+対格名詞+対格ゲルンディーウゥム:動作の目的を示す。

不定詞を伴う対格・主格(accusativus et nominativus cum infinitivo)

①不定詞を伴う対格(accusativus cum infinitivo)

文字通り、動詞の不定形を伴う対格である。略して「a.c.i.」ともいう。これは、名詞・代名詞と不定動詞がもろともに定動詞の目的語になっているため に、名詞・代名詞は対格となるものである。「言う」とか「考える」などの動詞は、現代語では節を目的語にとることが多いが、ラテン語ではこの構文を使うこ とが多い。次のように考えると分かりやすい。

能動態定動詞+対格+不定動詞=能動態定動詞「主格+定動詞」

注意すべきは、不定詞句の時制によって、意味が変ってくることである。時制の対応関係は、次の通りである。
\不定詞句の表す動作
定動詞の時制
主文より前
主文と同時
主文より後
現在
未来
前未来
未完了
完了
過去完了
完了不定詞
現在不定詞
未来不定詞

②不定詞を伴う主格(nominativus cum infinitivo)

「不定詞を伴う対格」の構文が、受動態になると、「不定詞を伴う主格」となる。略して「n.c.i.」ともいう。次のように考えると分かりやすい。

受動態定動詞+主格+不定動詞=受動態定動詞「主格+定動詞」

連結分詞(participium coniunctum)と独立奪格(ablativus absolutus)

連結分詞(participium coniunctum)と独立奪格(ablativus absolutus)は、互いに似ているので特に注意が必要である。連結分詞が二つの出来事が同時に起こることを表すのに対し、独立奪格は二つの出来事が 次々に(つまり、独立奪格の出来事に引きつづいて定動詞の出来事が)起こることを表す。次の例(Leo Stock, Langenscheidts Kurzgrammatik Latein, 1970/73 Berlin u.a., S. 62)を見れば、一目瞭然である。

①連結分詞(participium coniunctum)



②独立奪格(ablativus absolutus)

英語の分詞構文に似たようなものである。次のように、sum, fui, esseを補って考えると分かりやすい。

名詞・代名詞(奪格)+完了分詞/現在分詞/形容詞/名詞(奪格)
=「名詞・代名詞(主格)+完了分詞/現在分詞/形容詞/名詞(主格)+sum, fui, esseの定動詞」

接続法(subiunctivus)

接続法「subiunctivus」とは、「sub + iungo, iunxi, iunctum, iuncere(結合する)」であり、要するに下に結合する(従える)ことである。すなわち、従文によく現れる叙法(modus)である。事実を断定的に 述べる直説法と異なり、そこから一歩ひいて、想定したことを述べるための叙法である点は、ドイツ語と同じである。しかし、具体的に用法を見ると、ドイツ語 とは若干異なる。

①可能話法

ア 間接話法
間接話法は、主に「不定詞を伴う奪格」(accusativus cum infinitivo)に係る関係節で現れる。時制によって意味が変ってくるので、時制の対応関係を把握することが重要である。

\従文定動詞の表す動作
主文定動詞の時制
主文より前
主文と同時

主文より後
直説法現在
直説法未来
直説法前未来
接続法完了
接続法現在
接続法現在
直説法未完了
直説法完了
直説法過去完了
接続法過去完了
接続法未完了
接続法未完了

イ 結果文
adeo ... ut+(ne+)接続法定動詞
ita ... ut+接続法定動詞
sic ... ut+接続法定動詞
tam ... ut+接続法定動詞

②要求話法

要求を表す直説法定動詞+ut+(ne+)接続法定動詞
直接法定動詞+ut+(ne+)接続法定動詞(純粋目的文)

③非現実話法


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