特に注意すべき構文
- スピーヌム、ゲルンディウム、ゲルンディーウゥム
- 不定詞を伴う対格・主格
- 連結分詞と独立奪格
- 接続法
スピーヌム(supinum)・ゲルンディウム(gerundium)・ゲルンディーウゥム(gerundivum)
スピーヌム(supinum)・ゲルンディウム(gerundium)・ゲルンディーウゥム(gerundivum)の三者は、似ているために混乱しやす い。いずれも、動詞が他の品詞に転化した形である。- ゲルンディウムとゲルンディーウゥムは名前が似ており、また格変化も似ているのであるが、用法はまったく異なる。ゲルンディウム
は動詞の能動態名詞形であるのに対し、ゲルンディーウゥムは動詞の受動態形容詞形(未来分詞)である。次の例(Frederic M.
Wheelock, R. A. LaFleur (Ed.), Wheelock's Latin, 5th ed., 1995 New
York, p. 271)を見れば、その違いは一目瞭然である。
- amor legendi = love of reading(ゲルンディウム)
- liber legendus = a book to be read(ゲルンディーウゥム)
- spes oppidum expugnandi(城塞を攻略する望み) = spes oppidi expugnandi
- laetitia amicam videndi(彼女に会う喜び) = laetitia amicae videndae
- スピーヌムは、文法的な説明は動詞の名詞形である。このため、ゲルンディウムと混同しやすそうである。しかし、スピーヌムは他の
二つとは形が明らかに異なっているし、また、スピーヌムが使われるべき場合は限られているので、実際に混乱することはないだろう。
①スピーヌム(supinum)
スピーヌムの用法は、次の通りである。名詞形とはいっても、使い方を見る限りは副詞のようである。- -umで終わる(対格):「eo」、「venio」、「mitto」などに附加され、動作の目的を示す。
- -u(長音)で終わる場合(与格・奪格):「facile」などの形容詞に附加され、形容の観点を示す。
②ゲルンディウム(gerundium)
ゲルンディウムとは、動詞の名詞形である。動名詞ともいう。目的語をとることも不可能ではないが、その場合には、前述したように「名詞+ゲルンディーウゥ ム」の構文を使うほうが普通であるので、結局、通常は単独で用いられることになる。次のような用法がある。- 属格
- 次のような名詞に係る。前置される。
- facultas, facultatis
- occasio, occasionis
- potestas, potestatis
- cupido
- studium, studii
- causa, causae
- tempus, tempi
- ars, artis
- signum,
- initium,
- finis,
- 次のような形容詞に係る。前置される。
- peritus, perita, peritum (~に経験のある)
- cupidus, cupida, cupidum (~を望んだ)
- studiosus, studiosa, studiosum (~に熱心な)
- 与格
- 「studeo」「operam do」などの動詞の目的語となる。
- 目的の与格(dativus finalis)として「utilis」などの形容詞に係る。
- 対格
- 「ad」などの前置詞に係る。特に、次のような成句。
- idoneus, indonea, indoneum ad ... (~に適している)
- aptus, apta, aptum ad ... (~に適している)
- natus, nata, natum ad ... (~に生まれついている)
- missus, missa, missum ad ... (~に送られた)
- creatus, creata, creatum ad ... (~に選ばれた)
- 奪格
- 「in」「de」などの前置詞に係る。
- 方法の奪格(ablativus modi)・手段の奪格(ablativus instrumenti)として用いる。
③ゲルンディーウゥム(gerundivum)
ゲルンディーウゥムとは、受動態の未来分詞である(ドイツ語の「zu+現在分詞」にあたる)。惹起者の与格(dativus auctoris)を加えてもよい(ドイツ語の「von jemandem zu+現在分詞」にあたる)。次のような用法がある。「名詞+ゲルンディーウゥム」の用法には、次のようなものがある。- 名詞に係る:受動態未来分詞本来の意味(ドイツ語の「zu+現在分詞」にあたる)。
- 名詞+ゲルンディーウゥム:「目的語+ゲルンディウム」の言い換え。特に、次の表現。
- causa(長音、奪格)+属格名詞+属格ゲルンディーウゥム:動作の理由を示す。
- ad+対格名詞+対格ゲルンディーウゥム:動作の目的を示す。
不定詞を伴う対格・主格(accusativus et nominativus cum infinitivo)
①不定詞を伴う対格(accusativus cum infinitivo)
文字通り、動詞の不定形を伴う対格である。略して「a.c.i.」ともいう。これは、名詞・代名詞と不定動詞がもろともに定動詞の目的語になっているため に、名詞・代名詞は対格となるものである。「言う」とか「考える」などの動詞は、現代語では節を目的語にとることが多いが、ラテン語ではこの構文を使うこ とが多い。次のように考えると分かりやすい。能動態定動詞+対格+不定動詞=能動態定動詞「主格+定動詞」
注意すべきは、不定詞句の時制によって、意味が変ってくることである。時制の対応関係は、次の通りである。
\不定詞句の表す動作 定動詞の時制 |
主文より前 |
主文と同時 |
主文より後 |
現在 未来 前未来 未完了 完了 過去完了 |
完了不定詞 |
現在不定詞 |
未来不定詞 |
②不定詞を伴う主格(nominativus cum infinitivo)
「不定詞を伴う対格」の構文が、受動態になると、「不定詞を伴う主格」となる。略して「n.c.i.」ともいう。次のように考えると分かりやすい。受動態定動詞+主格+不定動詞=受動態定動詞「主格+定動詞」
連結分詞(participium coniunctum)と独立奪格(ablativus absolutus)
連結分詞(participium coniunctum)と独立奪格(ablativus absolutus)は、互いに似ているので特に注意が必要である。連結分詞が二つの出来事が同時に起こることを表すのに対し、独立奪格は二つの出来事が 次々に(つまり、独立奪格の出来事に引きつづいて定動詞の出来事が)起こることを表す。次の例(Leo Stock, Langenscheidts Kurzgrammatik Latein, 1970/73 Berlin u.a., S. 62)を見れば、一目瞭然である。- sole oriente profecti sumus. 日の出とともに起きる(連結分詞)。
- sole orto profecti sumus. 日が出てから起きる(独立奪格)。
①連結分詞(participium coniunctum)
②独立奪格(ablativus absolutus)
英語の分詞構文に似たようなものである。次のように、sum, fui, esseを補って考えると分かりやすい。名詞・代名詞(奪格)+完了分詞/現在分詞/形容詞/名詞(奪格)
=「名詞・代名詞(主格)+完了分詞/現在分詞/形容詞/名詞(主格)+sum, fui, esseの定動詞」
接続法(subiunctivus)
接続法「subiunctivus」とは、「sub + iungo, iunxi, iunctum, iuncere(結合する)」であり、要するに下に結合する(従える)ことである。すなわち、従文によく現れる叙法(modus)である。事実を断定的に 述べる直説法と異なり、そこから一歩ひいて、想定したことを述べるための叙法である点は、ドイツ語と同じである。しかし、具体的に用法を見ると、ドイツ語 とは若干異なる。①可能話法
ア 間接話法間接話法は、主に「不定詞を伴う奪格」(accusativus cum infinitivo)に係る関係節で現れる。時制によって意味が変ってくるので、時制の対応関係を把握することが重要である。
\従文定動詞の表す動作 主文定動詞の時制 |
主文より前 |
主文と同時 |
主文より後 |
直説法現在 直説法未来 直説法前未来 |
接続法完了 |
接続法現在 |
接続法現在 |
直説法未完了 直説法完了 直説法過去完了 |
接続法過去完了 |
接続法未完了 |
接続法未完了 |
イ 結果文
adeo ... ut+(ne+)接続法定動詞
ita ... ut+接続法定動詞
sic ... ut+接続法定動詞
tam ... ut+接続法定動詞
②要求話法
要求を表す直説法定動詞+ut+(ne+)接続法定動詞直接法定動詞+ut+(ne+)接続法定動詞(純粋目的文)