前置詞(praepositio)
- 対格支配の前置詞
- 奪格支配の前置詞
- 対格・奪格支配の前置詞
また、ラテン語には、古典ギリシア語やドイツ語と同じく、複数格を支配する前置詞もある。とはいっても、古典ギリシア語のように三つの格(属格・与格・対 格)を支配する 前置詞(αμφι, επι, παρα, περι, προς, υπο)はない。支配してせいぜい二つであるから、ドイツ語と同じである。ただ、ドイツ語の場合には与格・対格支配の前置詞であって、動きを示 さない場合に与格、動きを示す場合に対格を用いるが、ラテン語の場合、これに相当するものは対格・奪格支配の前置詞であり、動きを示さない場合に奪格、動 きを示す場合には対格を用いるのである。
それでは、単純にドイツ語の与格支配をラテン語の属格支配に置き換えれば済むかというと、そうもいかない。第一に、ドイツ 語で与格支配でもラテン語では対格支配のものがかなりある(ad = zu, zu ... hin, bei; ante = vor; apud = bei; inter = zwischen; post = nach; praeter = außer; prope = bei)。第二に、ドイツ語で対格支配でもラテン語では奪格支配のものもある(sine = ohne)。第三に、ラテン語の対格・奪格支配の前置詞の範囲は、ドイツ語の与格・対格支配の前置詞に較べてかなり狭く、「in」と「sub」しかない。 しかも、前述のように、ラテン語には属格支配の前置詞がないのであるから、前置詞支配のカテゴリーも自ずと変わってくる。結論的には、ドイツ語の前置詞と ラテン語の前置詞は、一応別物と思った方がよい。ただ、意味内容については似ている場合が多い。
対格支配の前置詞
最も数が多いのが、対格支配の前置詞である。
ad |
~のところへ(場所)、~のところで(場所)、~まで(時
間)、~くらい(抽象)
|
adversus |
~に対して(場所) |
ante |
~の前に(場所・時間) |
apud |
~(人)のところで(場所) |
circa (circum) |
~の周りに(場所)、~ごろに(時間) |
contra |
~に対して(場所)、~に反対して(抽象) |
erga |
~の周りに(場所)、~に対して(抽象)、~に関して(抽
象)
|
extra |
~の外で(場所)、~以外(抽象) |
infra |
~の下で(場所)、~より下(抽象) |
inter |
~の間に(場所・時間)、~の間に
|
intra |
~の内側で(場所)、~以内に(時間) |
iuxta |
~の近くに(場所) |
ob |
~に対して(場所)、~の理由で(抽象) |
per |
~を通って(場所)、~の間(時間)、~を用いて(抽象) |
post |
~の後に(場所・時間) |
praeter |
~を通り過ぎて(場所)、~の他(抽象) |
prope |
~の近くに(場所)、~頃に(時間) |
propter |
~の近くに(場所)、~頃に(時間) |
secundum |
~に沿って(場所)、~のあとすぐに(時間)、~に従って
(抽象) |
super (supra) |
~の上に(場所)、~以上(時間・抽象) |
trans |
~の向こうに(場所) |
ultra |
~を超えて向こうに(場所)、~を超えて(時間)、~を踰
越して(抽象)
|
usque ad |
~まで(場所・時間) |
奪格支配の前置詞
a (ab) |
~から(場所)、~以来(時間)、~から(抽象) |
cum |
~とともに(場所)、~で(抽象) なお、人称代名詞と結びつくときは必ず後置され、しかも一語で綴る。
|
una cum (una) |
~と一緒に(場所)、~と同時に(時間) |
de |
~から(場所)、~からずっと(時間)、~について(抽
象)
|
e (ex) |
~から外へ(場所)、~以来(時間)、~によると(抽象) |
prae |
~の前に(場所)、~のために(抽象) |
pro |
~の前に(場所)、~の代りに(抽象) |
sine |
~なしで(抽象) |
対格・奪格支配の前置詞
対格は動的であるのに対して、奪格は静的である。例えば、「in+対格」であれば「~の中へ」を表し、「in+奪格」であれば「~の中で」を表す。subについてもまったく同じである。in |
~の中 |
sub |
~の下 |