名詞の格変化(declinatio)
総説
ラテン語の名詞は、数(numerus)と格(casus)によって語の形を変える。これをラテン語で「デクリナーティオー(declinatio)」という。日本語では、「格変化」「格変」「変化」などと訳される。
- 数には、単数(singularis)と複数(pluralis)がある。古典ギリシア語のような双数はない。
- 格には、主格(nominativus)、呼格(vocativus)、属格(genitivus)、与格(dativus)、対格(accusativus)、奪格(ablativus)、地格(locativus)の7つがあるが、呼格はだいたいにおいて主格と同形であり、また、地格についてはこの格を持っている語自体が稀である。したがって、通常の名詞については、5つの格を覚えればよいということになる。
つまり、通常一つの名詞につき、2*5=10の形を覚える必要がある。
しかし、ラテン語では、格変化はおおよそ規則的であり、パターン化されている。大概、典型的なものについて10個の形を覚えておけば、他の名詞については、単数主格と単数属格の形が分かれば、他の形は類推できる。このため、辞書には単数主格と単数属格の形しか出ていない。単語を書く際には、この二つの形を並べて書く(こうすることで、名詞であることも明らかになる)。名詞によっては複数形しかないものもあるが、その場合は、複数主格と複数属格を書く。
規則的な格変化のパターンを、似ているものについてまとめると、だいたい、A型、O型、I型、子音型、U型、E型の6つになる。これは、属格複数の形に着
目して分類したものである。属格複数の形は、必ず「-um」という形をするが、この「-um」の直前にくるものによって区別するのである。「-ar-」であればA型、「-or-」であればO型、「-i-」であればI型、「-子音-」であれば子音型、「-u-」であればU型、「-er-」であればE型となるのである。実際には、これらを更に細分して覚えたほうが分かりやすい。また、あまり多くないが、不規則な格変化をする名詞もある。
なお、名詞には必ず性(genus)があり、これを覚えておかないと、形容詞を正しく変化させることができないから(数・格のみならず、性をも一致させる必要があるため。これを性数格の一致という)、これも覚える必要がある。性には、男性(masculinum)・女性(femininum)・中性(neutrum)がある。中性は、イタリア語やフランス語などでは消失してしまったが、ドイツ語には現在でもある。
格変化パターンの分類
ここで分類のフローチャートをを示しておこう。大概のものは単数主格と単数属格の形さえあれば、格変化の
形を知ることができる。しかし、若干のものでは性の援けも借りる必要がある。一通り格変化を学んだ後に参照していただければ便利だろうと思う。
- 単数属格が「-ae」となる場合は、A型の格変化である。この場合:
- 単数主格が「-a」となる場合は、「femina, feminae」と同じ格変化をする。
- 単数主格が「-as(長音)」となる場合は、「Aeneas, Aeneae」と同じ格変化をする。
- 単数主格が「-es(長音)」となる場合は、「pyrites, pyritae」と同じ格変化をする。
- 単数属格が「-es(長音)」となる場合にも、A型の格変化である。
- この場合、単数主格は「-e(長音)」となる。「epitome, epitomes」と同じ格変化をする。
- 単数属格が「-i(長音)」となる場合、もう少しよく見る必要がある。
- 「-es(長音), -ei(長音)」という形になっていれば、それは、E型の活用である。「res, rei」と同じ格変化をする。
- それ以外の場合は、O型の格変化である。この場合、単数主格が:
- 「-us」であれば、「equus, equi」と同じ格変化をする。
- 「-um」であれば、「donum, doni」と同じ格変化をする。
- 「-os」であれば、「Delos, Deli」と同じ格変化をする。
- 「-os(長音)」であれば、「Androgeos, Androgei (Androgeo)」と同じ格変化をする。
- 「-on」であれば、「Ilion, Ilii」と同じ格変化をする。
- 語幹のみであれば、単数主格と単数属格を較べる必要がある。このとき:
- 「-er, -eri」と語幹に変化がなければ、「puer, pueri」と同じ格変化をする。
- 「-er, -ri」と語幹に変化があれば、「liber, libri」と同じ格変化をする。
- 単数属格が「-o(長音)」となる場合にも、O型の格変化である。
- この場合、単数主格は「-os(長音)」となる。「Androgeos, Androgeo (Androgei)」と同じ格変化をする。
- 単数属格が「-is」となる場合には、I型又は子音型の格変化である。
- 単数主格で「-es(長音)」となる場合には、I型の「vulpes, vulpis」と同じ格変化をする。
- 単数主格で「-e」となる場合には、I型の「mare, maris」と同じ格変化をする。
- 単数主格で「-is」となる場合には、I型となるが、次のいずれになるかは区別ができない。
- 真正I型の「turris, turris」と同じ格変化。
- 混合型の「hostis, hostis」と同じ格変化。
- 単数主格で「-s (-x)」となる場合には、単数属格の語幹の末尾を見る必要がある。これが、
- 子音2つである場合は、I型の「frons, frondis」ないし「frons, frontis」と同じ格変化をする。
- 子音1つである場合は、それがどの子音かを見る必要がある。それが:
- 「m」であれば、それは子音型の「hiems, hiemis」である。
- 黙音(g/c/d/t/b/p)であれば、子音型の「lex, legis」と同じ格変化をする。
- 単数主格が語幹のみとなる場合には、語幹の末尾まで見る必要がある。これが:
- 「-ar, -aris」、「-al, -alis」である場合:
- 中性であれば、I型の「animal, animalis」と同じ格変化をする。
- 男性・女性であれば、子音型の「amor, amoris」と同じ格変化をする(「Caesar, Caesaris」の如し)。
- その他である場合、性を見る必要がある。これが:
- 中性であれば、子音型の「corpus, corporis」と同じ格変化をする。
- 男性・女性であれば、再び語幹の末尾に注目する。これが:
- 単数属格で「-nis」となる場合、「homo, hominis」と同じ格変化をする。
- 「-er, -eris」である場合には、子音型の「amor, amoris」と同じ格変化をする(「mulier, mulieris」の如し)。
- 「-er, -ris」である場合には、区別不能となる。次のいずれかとなる。
- I型の「imber, imbris」と同じ格変化。
- 子音型の「mater, matris」と同じ格変化。
- 単数属格が「-us(長音)」となる場合は、U型の格変化である。
- 単数主格が「-us」となる場合には、「luxus, luxus」と同じ格変化をする。
- 単数主格が「-u(長音)」となる場合には、「cornu, cornus」と同じ格変化をする。