動詞の活用(coniugatio)
ラテン語の動詞は、
- 態(vox)
- 時制(tempus)
- 叙法(modus)
- 数(numerus)
- 人称(persona)
これらの語形変化をまとめて、動詞の「活用(coniugatio)」という。この章の課題は、この活用をマスターすることである。多くの言語で消失した格変化に較べ、動詞の活用は現代のヨーロッパ言語にも多く残っているので、こみいった説明は必要ないだろう。
さて、とりあえず定動詞に限って話を進めよう。態には
- 能動態(activa)
- 受動態(passiva)
- 現在時制(praesens)
- 完了時制(perfectum)
- 未完了時制(imperfectum)
- 過去完了時制(plusquamperfectum)
- 未来時制(futurum)
- 前未来時制(futurum praeteritum)
- 直説法(indicativus)
- 接続法(subiunctivus)
- 命令法(imperativus)
- 単数(singularis)
- 複数(pluralis)
- 1人称(prima)
- 2人称(secunda)
- 3人称(tertia)
したがって、単純計算でいくと、2*6*3*2*3 = 216、つまり、定動詞だけで216の形を覚えなければならないことになる。
しかし、実際にはそんなに多くはない。
- まず第一に、ラテン語の接続法は、未来時制と前未来時制を欠いている。このため、まずは、2*2*1*2*3 = 24減る。
- 次に、命令法は完了時制・未完了時制・過去完了時制・前未来時制を欠いている。このため、2*4*1*2*3 = 48減る。
とはいえ、仮に1000語動詞を覚えるとして、144*1000 = 144000、つまり14万4000の形を一つ一つ覚えていかなければならないのであろうか。そんなことはない。格変化にパターンがあったように、活用にもパターンがあるのである。そのパターンの代表的な動詞の活用を覚え、かつ、動詞がどのパターンに属するかが判れば、自ずと活用は出てくるのである。
このパターンには、大きく分けて5つの型がある。
- A型:能動態現在時制不定詞が「-are」となるもの。
- E型:能動態現在時制不定詞が「-ere」(長音)となるもの。
- 子音型:能動態現在時制不定詞が「-ere」(短音)となるもののうち、能動態現在時制直説法一人称単数形が「-io」とならないもの。
- I(短音)型:能動態現在時制不定詞が「-ere」(短音)となるもののうち、能動態現在時制直説法一人称単数形が「-io」となるもの。
- I(長音)型:能動態現在時制不定詞が「-ire」(長音)となるもの。
- (イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)
- (イ)、(ハ)、(ニ)、(ロ)
- ①能動態現在時制直説法一人称単数形
- ②能動態完了時制直説法一人称単数形
- ③スピーヌム
- ④能動態現在時制不定詞
- 定動詞
- 現在時制・未完了時制・未来時制:①と④からつくる。
- 完了時制・過去完了時制・前未来時制:能動態は②から、受動態は③からつくる。特に次のものはきわめて規則的である。
- 完了時制:受動態は「③+「sum, fui, -, esse」の現在時制定動詞」。
- 過去完了時制:能動態は「②-「-i」+「sum, fui, -, esse」の未完了時制定動詞」(但し接続法では若干の母音変化あり)、受動態は「③+「sum, fui, -, esse」の未完了時制定動詞」。
- 前未来時制:能動態は「②-「-i」+「sum, fui, -, esse」の未来時制定動詞」、受動態は「③+「sum, fui, -, esse」の未来時制定動詞」。
- 形容詞形
- 能動態現在時制分詞・受動態未来時制分詞(ゲルンディーウゥム):①と④からつくる。
- 受動態完了時制分詞・能動態未来時制分詞:③からつくる。
- 名詞形
- ゲルンディウム:ゲルンディーウゥムの中性単数と同じ(但し主格はない)。
- スピーヌム:③そのもの。
- 能動態現在時制不定詞:④そのもの。
- 受動態現在時制不定詞:①と④からつくる。
- 能動態完了時制不定詞:③からつくる。
- 受動態完了時制不定詞:「受動態完了時制分詞+esse」。
- 能動態未来時制不定詞:「能動態未来時制分詞+esse」。
- 受動態未来時制不定詞:「スピーヌム+iri」(格変化なし)。
さて、個々の動詞を活用させるには、その動詞がどのパターンに属する かを判別する必要がある。この目的のために、名詞の格変化のときに示したようなフローチャートを示しておこう。(改訂予定)
- ④が「-sse」であれば、「sum, fui, -, esse」かその複合動詞(「possum, potui, -,
posse」を含む)である。
- ④が「-are」(aは短音)であれば、A型乙式の「do, dedi, datum, dare」である。
- ④が「-are」(aは長音)であれば、A型のそれ以外の動詞である。このとき:
- ③が「-atum」(eは長音)であれば、甲式「-o, -avi, -atum, -are」(amo, amavi, amatum, amare)のパターンである。
- ③が「-atum」(aは短音)であれば、乙式の「-o, -i, -atum, -are」(sto, steti, statum, stare)のパターンである。
- ④が「-ere」(最初のeは長音)であれば、E型である。このとき:
- ③が「-etum」(eは長音)であれば、甲式「-eo, -evi, -etum, -ere」(deleo, delevi, deletum, delere)のパターンである。
- ③が「-itum」(iは短音)であれば、「-eo, -ui, -itum, -ere」(habeo, habui, habitum, habere)のパターンである。
- ③が「-tum/-sum」であれば、「-eo, -(s)i, -sum/-tum, -ere」(video,
vidi, visum, videre)のパターンである。
- ④が「-ere」(最初のeは短音)であれば、①を見る必要がある。これが:
- 「-io」であれば、I(短音)型である。このとき:
- ③が「-itum」(iは長音)であれば、甲式の「-io, -ivi (-ii), -itum, -ere」(cupio, cupivi (cupii), cupitum, cupere)のパターンである。
- ③が「-itum」(iは短音)であれば、乙式の「-io, -i, -itum, -ere」(fugio, fugi, fugitum, fugere)のパターンである。
- ③が「-tum/-sum」であれば、丙式の「-io, -(s)i, -sum/-tum, -ere」(capio, cepi, captum, capere; pellicio, pellexi, pellectum, pellicere)のパターンである。
- それ以外であれば、子音型である。このとき:
- ③が「-itum」(iは長音)であれば、甲式の「-o, -ivi (-ii), -itum, -ere」(peto, petivi (petii), petitum, petere)のパターンである。
- ③が「-itum」(iは短音)であれば、乙式の「-o, -i, -itum, -ere」(credo, credidi, creditum, credere)のパターンである。
- ③が「-tum/-sum」であれば、丙式の「-o, -(s)i, -sum/-tum, -ere」(lego, legi, lectum, legere; rego, rexi, rectum, regere)のパターンである。
- ④が「-ire」(iは長音)であれば、I(長音)型である。このとき:
- ③が「-itum」(iは長音)であれば、甲式の「-io, -ivi (-ii), -itum, -ire」(audio, audivi (audii), auditum, audire)のパターンである。
- ③が「-itum」(iは短音)であれば、不規則の「eo, ii (ivi), itum, ire」又はその複合動詞である。
- ③が「-tum/-sum」であれば、丙式の「-io, -(s)i, -sum/-tum, -ire」(venio, veni, ventum, venire; vincio, vinxi, vinctum, vincire)のパターンである。
- 甲式とは、③で特徴的な長母音(A型で「a」、E型で「e」、子音型・I型で「i」)が出てくるもの。
- 乙式とは、③で特徴的な短母音(A型で「a」、E型・子音型・I型で「i」)が出てくるもの。
- 丙式とは、③で特徴的な母音が出てこないもの。